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FTXのリスクの高いビジネス、透明性の低さ、ガバナンスの欠如が浮き彫りに
今春にはステーブルコイン「USテラ」の暴落が、暗号資産(仮想通貨)市場に激震をもたらしたが、足元では再び強い逆風が生じている。暗号資産取引所大手FTXトレーディングの破綻懸念とともに、暗号資産市場の信頼性が再び揺らいでいるのである。底流にあるのは、リスクの高い事業内容とその透明性の低さ、さらにガバナンスの欠如だ。
FTXは、暗号資産の顔とされるサム・バンクマンフリードCEO(最高経営責任者)によって2019年に創業された。そこに数十のシリコンバレーやウォール街の大物投資家らが、20億ドル近くもの投資を行ってきた。ベンチャーキャピタル(VC)投資会社セコイア・キャピタル、セコイア、オンタリオ州教職員年金基金(OTPP)、ソフトバンクグループ、韓国サムスン電子のVC部門、アクティビストのダニエル・ローブ氏率いるヘッジファンドのサード・ポイント、タイガー・グローバル、米プロフットボールリーグ(NFL)のスター選手、トム・ブレイディ氏らが含まれている。
FTXに資金調達面で大きな追い風が吹き始めたのは2021年の夏頃からだという。同社は7か月間のうちに、70以上の投資家から一気に19億ドルの資金を確保したという(データ提供会社ピッチブック)。
そうした投資家たちは、FTXは仮想通貨の売買から手数料収入を得る単なる取引所だと理解していたという。ベンチャーキャピタルから出資を受けたスタートアップ企業は、少なくとも投資家1~2人を取締役に迎えることが一般的なようだ。巨額の投資でリスクを負う投資家らが、経営陣を監視するための取締役ポストを与えるよう要求する。
しかし証券当局への提出書類や関係筋によると、2021年夏まで、FTXの取締役はバンクマンフリード氏のみだったという。こうしたガバナンスの欠如が、リスクが高く杜撰なビジネスを許してしまったといえるだろう。
トークンを利用したぜい弱な財務体質の実態が露呈
FTXの資金繰りが一気に行き詰まるきっかけとなったのは、バンクマンフリードCEOが創業した個人保有の投資会社アラメダ・リサーチが保有する資産の約4割が、価値の裏付けのないトークンFTTであることが判明したことだった。このFTTはFTXが発行し、アラメダ・リサーチに供給したものだ。そしてFTXは、FTTを担保にアラメダ・リサーチに融資を行い、その資金でアラメダ・リサーチは暗号資産関連企業に投融資を行っていた。
こうした実態が露呈されたことを受け、FTXのライバルでもある暗号資産取引所大手のバイナンスがFTTを清算すると発表したことを機にFTTの価格が急落し、FTXの財務不安へと発展したのである。
投資家の損失と追加増資の難しさ
FTXに投資したセコイア・キャピタルは9日に、焦げ付きのリスクを理由に、傘下ファンドが行った1億5,000万ドル相当のFTXの持ち分について、評価額を引き下げゼロとした。投資家に大きな打撃が及び始めたのである。
バンクマンフリードCEOは9日に、資金不足を手当てするため、最大80億ドルの緊急支援が必要であり、それがなければ同社は破綻する、と投資家らに電話で訴えたと報じられている。また80億ドルのうち、増資で30億~40億ドルの資金調達を目指していると述べたという。
しかし暗号資産市場の環境が良かった2021年半ばの前回でさえ、増資で調達できたのが10億ドル規模であったことを考えると、現在の環境の下で30億~40億ドルの資金調達は現実的ではないだろう。
バイナンスが一時検討していたFTXの買収を撤回したことで、FTXが破綻を回避する道はかなり険しくなったのではないか。
顧客資金を使った融資で顧客にも大きな打撃
大きな打撃を追っているのは、FTXに出資した投資家だけではない。FTXを利用して暗号資産を取引してきた顧客も大きな打撃を受ける。FTXは、顧客が取引目的で同社に預けていた顧客資産を使って、関連の投資会社アラメダ・リサーチが行うリスクの高い取引に融資をしていたという。FTXの顧客資産は合計で約160億ドルであるが、FTXはその半分以上である約100億ドルをアラメダへの融資に使っていたようだ。
FTXを利用して暗号資産を取引してきた顧客は、現在、ビットコインやイーサなどの暗号資産を資金不足に陥ったFTXから引き出せない状況、と報じられている。
今年破産申請した暗号資産レンディング(貸し付け)業者のセルシウス・ネットワークや暗号資産ブローカー、ボイジャー・デジタルのケースでは、顧客は自分の口座から数か月にわたって締め出された。そのうえで、裁判所の審理を経て債権者となり、自分の持ち分を巡って他の債権者と闘うことを強いられたのである。
規制強化による市場の信頼回復に向かうか
こうした過去の事例を想起し、FTXの経営不振が他の取引所に波及した場合に、自身の資産を取り戻すことができなくなることを恐れて、暗号資産を現金化する動きが個人投資家の間で広範囲に加速していることが考えられる。そのため、11月6日から9日のわずか数日のうちに、ビットコインのドル建て価格は24%近くも急落している。
今回のFTXの破綻懸念の問題は、暗号資産に対する規制強化の議論を再び加速させるきっかけとなる可能性が高い。FTXのビジネスモデル、財務の不透明性、ガバナンスの欠如が今回の問題の底流にあることは明らかである。投資家保護のための法整備の必要性も指摘されている。こうした問題が規制強化の中心となっていくのではないか。新たな規制強化を通じて、暗号資産市場が信頼性を取り戻すことができるかどうかは、不明である。
(参考資料)
"Silicon Valley Poured Money Into FTX, With Few Strings Attached(仮想通貨のFTX暗転、大物VC投資家に汚点)", Wall Street Journal, November 11
"FTX Tapped Into Customer Accounts to Fund Risky Bets, Setting Up Its Downfall(仮想通貨取引所FTX、顧客資金で高リスク取引に融資)", Wall Street Journal, November 11
「暗号資産32兆円消失」、2022年11月11日、日本経済新聞
FTXの危機、個人投資家に最悪のシナリオかー破綻の脅威迫る中で、2022年11月11日、ブルームバーグ